最終回『最後の対決』死が絆を引き裂く
芹沢(生田斗真)は自分の手で兄・典良(劇団ひとり)を任意連行させてしまった事で落胆して心を痛めていた。

そんな芹沢の心痛を感じながらも係長・中西(三宅裕司)は、歩み寄って赤い封筒を差し出して告げた。

「闘おう、一緒に。
俺がお前を死ぬ気で支える」

封筒の宛名には『芹沢直人様』と書かれていた。

芹沢が開封すると2枚のタロットカードが入っていた。



「今まで雨野は1枚を俺、もう1枚をタ−ゲットに送っていました。
次のターゲットは俺です」

2人の元へ同僚の高塚刑事(上原美佐)が典良が芹沢を呼んでいると告げに来た。

芹沢が取調室の典良の前に座ると典良は穏やかな表情で話し出した。

「俺は駄目な兄貴だな。
昔から意気地がなくて、父さんにに言いたい事をハッキリ言う、お前をずっと羨ましいと思ってた」

「何だよ、急に…」

「俺はいつも、お父さんの顔色を伺ってた。
お父さん、本当はお前に後ん継いで貰いたいんだよ」

「そんな事ない」

「俺には判る。
お父さんの事を頼むな。
タバコ買って来てくれないか?
最後に一服したいんだよ」

芹沢は兄が罪を償う前の最後の願いだと承諾する。

「…解った」

そして部屋を出ようとした時に典良は呼び止めて謝った。

「直人…、すまない」

芹沢はタバコを買いに取調室を出た。

典良は握り締めていた手を机の上で広げて小さく折り畳んだ紙を置いた。
そして胸ポケットからタバコケ−スを出し開いて、タバコを1本手に挟みライターを取り出して、震える手でライターに火を点けた…。

取調室に入った芹沢は余りの突然の出来事に愕然して、持っていたタバコと灰皿が手から抜け落ちた。

「兄貴!!兄貴!!」

典良は両手を首に充てたまま床に倒れて息絶えていた。

床には宗田の殺害に使用した青酸カリ入りのタバコが落ちており、自らもそれを吸って自殺を図ったのであった。

連絡を受けた栄作(石坂浩二)が走って病院の霊安室に駆け付けて、変わり果てた典良の亡骸に歩み寄って確認した。

「典良…、どうしてこんな…」

芹沢は栄作に典良の遺書を手渡した。

【お父さん、ご迷惑かけて申し訳ございません】

「馬鹿な事を…」

栄作は典良が最後まで芹沢家を背負って生きようとした遺書を読んで、典良に縋り付いて泣き崩れた。

その頃、警察署の廊下を歩いていた成瀬(大野智)は擦れ違い際に朝方、署内で青酸カリで自殺した人物が出た事を耳にしていた。

栄作を見守るしか出来ない直人に栄作は静かに語り出す。

「…私を許してくれ。
私の間違いが典良を死に追いやってしまったんだ…」

栄作は典良の手を握り締めて、今までの自分の言動を悔い謝罪した。

「兄貴を頼みます…」

初めて見る弱い父の姿を直視する事が出来ずに、その場を去ろうとした直人に栄作は伝えた。

「どんな事があっても…
お前達、二人は私の息子だからな」

「…はい…」

長い年月の間、父と子の間にあった深い溝が埋まった瞬間でもあった。

霊安室を出て栄作の泣き叫ぶ声を聞いて直人も又、声を殺して泣き崩れた。

その頃、署内の廊下で中西(三宅裕司)は成瀬と出会い告げた。

「先程、芹沢典良さんが自殺されました。
これも貴方の狙いなんですか?
幼い頃の傷はその人の一生を支配します。
真中友雄は17歳という若さでこれ以上ない様な悲しい経験をして、その上、世の中の影を知った。
それが彼を恐ろしい怪物にしてしまったのかも知れない。
ですが、これだけは解って欲しいです。
芹沢も15の時から11年の間、罪を背負って生きている。
真中友雄がアイツの辛さを一番分かってやれる筈です…
お願いします。
もう芹沢を許してやって下さい」

絶望の淵に落とされた芹沢を救いたいと中西は成瀬に深々と頭を下げた。

成瀬は中西から予想外の典良の死を知らされて頭を下げられた事で戸惑い動揺する。

そして、廊下で人知れず泣き崩れる芹沢の姿を目にして、やりきれない気持ちになる。

栄作はアルバムを開いて懐かしむ様に親子の記念写真眺める中、持病の心臓発作で倒れた。

しおり(小林涼子)は成瀬を待伏せて声を掛けた。

「怖いんです。成瀬さんが心配で貴方に何か起こりそうで…」

しおりは何も言わずに立ち去る成瀬の背中にしがみ付いた。

「もう止めて下さい!
何故、暗いトンネルの中に進もうとするんですか!?
少しで良いんです。
顔を上げて見て下さい。
綺麗な木漏れ日が見えませか?
木々のざわめきが聞こえませんか?」

成瀬は顔を上げて木々を見てみた。

「春には花が咲いて、秋には紅葉が包んでくれるし、冬に落ち葉のじゅうたんが出来ます。
雨が降った後には大きな虹が架かる事もあるんです。
成瀬さんが進もうとする道にこんな幸せな景色が有りますか?」

成瀬はしおりの手を静かに離すと何も告げずに去って行った。

芹沢は栄作との連絡が取れない事から、自宅へと駆けつけるとソファーに倒れている栄作を発見する。

「話したい事が沢山あったのに…」

芹沢は栄作にしがみ付いて泣き崩れた。

一方、成瀬は葛西(田中圭)に面会に行き保釈される事を伝えた。

成瀬自身が愛するしおりのに対して、してあげられなかった事をせめて葛西にはさせてあげようとした。

「保釈金は私が。
暴行教唆で実刑になれば外に出られまで何年、掛かるか判りますん。
少しの間だけでも愛する人を大事にしてあげて下さい」

保釈された葛西は麻里に電話を掛けた。

「有難う、一言お礼を言いたくて」

「葛西君、私あの家を出る事にした」

「ごめん、俺のせいで」

「私が決めた事たがら。
…部屋で待ってて良い…?」

「うん、じゃあ」

電話を切って去って行く姿を山野(清水優)が目撃していた。

一方、芹沢は兄の典良に次いで父の栄作までも失った今、彼の心の中で何かが弾け散ろうとしていた。

夜になって山野が成瀬と会った時、激しく問い詰めた。

「どうして、葛西を釈放したんですか!!

「彼はもう充分に苦しみました」

「まだ充分じゃない!!
アイツも僕を虐めてた1人なんですょ?」

「貴方は誰の為に復讐してるんですか?」

「勿論、秀雄です」

「だったら…」

「もういい!!
もう貴方には頼まない。
僕がこの手で仕留めます」

山野は鞄からナイフを取り出して見せた。

「…何をするつもりですか?」

「うるさい!」

山野がナイフを持ったまま成瀬に詰め寄った。

「止めて下さい!
そんな事をしたら英雄が貴方を止めた意味がなくなる」



成瀬に言われて一瞬、山野の脳裏に英雄の言葉が甦った。

《そんなもん、どうすんだよ?
駄目になる、お前なんかみたくない》

山野は英雄の言葉を思い出して思い詰める。

「馬鹿な事は止めて下さい」

成瀬が歩み寄った瞬間、山野は両手に握っていたナイフを突き出した。

それは英雄ではなくて悪魔が山野に囁いた瞬間だっも。

成瀬は息を荒げて苦痛の表情で腹部を押さえながら屈み込んだ。

「あんたのせいだぞ!
僕の邪魔をするから」

成瀬は山野を見上げて説得する。

「もう…、止めるんだ」

「うるさい!!」

制止する成瀬の言葉に耳も貸さずに山野は逃げ去った。

一方、葛西は宝石店で麻里へのプレゼントすべき指輪を購入後、部屋で待つ麻里の元へ向かう帰路で通行人のカップルとと擦れ違い際にぶつかった。

葛西は立ち止まって袋の中を確認した瞬間、激痛が襲った。
葛西が振り返りると背後には、山野がナイフを握って立っていた。

路上に仰向けに倒れた葛西は薄れ行く意識の中で、必死に麻里への宝石箱を掴もうとして息絶えた。

その頃、麻里は葛西の部屋で料理を作りながら恋人の帰宅を待っていた…。

そして後に山野は駆け付けた警察官によって射殺された。

家族と友人を失った芹沢は決意を固めて成瀬を呼び出していた。

一方、帰宅したしおりは先輩に預けらていた成瀬からの手紙を受け取った。



【僕は、あの日から、ずっと一人きりで生きて来ました。
信頼とか絆とかそんな物は一切捨てて来たつもりだったんです。
愛情や人を想う気持ちさえも。
でも、そうではなかった。
貴女はいつも僕を見ていてくれた。
貴女の温かな想いが僕の冷たい刺を優しく溶かしてくれる様な気がした。
1番大切な物を置き去りにしようとしていた僕に教えてくれたのも貴女でした。
今までの過ちを捨て、新たな未来を貴女と生きて行けたら。
貴女を近くに感じる度に何度、そう夢見たか分かりません。
でも僕はもう後戻りする事は出来ません。
後、1人どうしても死ななくてはいけない人間がいるんです。
しおりさん…、申し訳ありません。
そして今まで有難う…]

手紙を読んで成瀬の思いを知ったしおりは、直ぐさま成瀬に電話を掛けるが留守電になって繋がらない。

そこへ刑事課の係長・中西から電話が掛かって来る。

「芹沢から連絡はありませんでしたか?」

「いえ…、今日は何も。
何かあったんですか…?」

しおりは電話口で芹沢が無断で銃を持ち出して行方不明になった事を知る。

しおりは成瀬と芹沢は待ち合わせをしているのだと悟ると電話を切って駆け出した。

係長の中西を筆頭に同僚の高塚と倉田刑事も街中を駆け回り、署員を介して芹沢の捜索が行われた。

成瀬は腹部を押さえながら苦痛に耐え、自分を奮い立たせながら呟いた。

「今、死ぬ訳にはいかないんだ…」

そして終に成瀬の復讐劇が終焉を迎える…。

芹沢の前に全てを奪った憎むべき成瀬が姿を現した。

「最後に相応しい場所ですね」

芹沢との待伏せの場所は11年前に英雄が刺殺されたスクラップ場であった。

「最後の標的は俺か?」

芹沢は腰から拳銃を抜くと構えて成瀬に向けた。



「あんたの復讐は未完成のまま終わる。
俺のせいで沢山の人が死んだ。
親父や兄貴まで…
俺のせいで始まった復讐だ。
だから俺の手で止めるしかないんだ」

芹沢の銃を構える手が震えている。

「何を迷っているんです。
憎くないんですか?
貴方はたった1人の父親と優しいお兄さんを奪われて。
そして、かけがえのない親友まで殺されたんだ!
殺しても飽き足らない位に憎い筈だ。
違うか!?
法律では僕を裁けない。
復讐のチャンスは今しかないんだ!早く殺せ!」

芹沢は愕然としながら、構えていた両手を静かに下ろした。

「…あんたの目的はこれだったのか…?」

芹沢は成瀬が自分に殺されようとしている事に気付いた。

「罪を逃れた俺に今度こそ人を殺した裁きを受けさせる為に。
自分の命を犠牲にしてまで」

「貴方はまだ解らないのですか…!?
…僕の人生に失うものなんて、とうに無かったんだ…。
英雄と母が死んでから。
これで全部、終わる…
ようやく僕が僕に帰る時が来るんだ…」

成瀬は涙を零しながら芹沢の前に歩み寄りなが続ける。

「さあ…、撃って下さい。
これは真実から逃げた貴方の義務なんです。
終わらせるんだ…」

「止めてくれ…」

成瀬は芹沢の銃を持つ手を掴んで自分に引き寄せて叫んだ。

「僕を撃て!!
これが貴方の役目、僕をころせ!!」

芹沢の手から銃が路上に落ちた。
そして涙を流し首を横に振って泣きながら成瀬に言う。

「出来ない…。
貴方をそけまで苦しめたのは俺だ。
俺には貴方を殺せない!」

「…終わらせるんだ…」

成瀬は落ちた銃を拾い上げる。

「このまま生きていたら、僕は自分を許せない」

成瀬が自分のこめかみに銃を充てがった。

「止めろ!!」

芹沢が阻止する為に成瀬の手を持ち上げると空に弾丸が放たれた。

「もう終わらせるんだ!」」

「止める!!」


2人は銃を手に揉み合合いになる。

「僕を殺してくれ−!!」

「止めろ−!!」

闇夜に銃声音が響き渡った。

芹沢がゆっくりと倒れ込んだ。
彼の腹部を弾丸が貫いていた。

「おい!しっかりしろ!」

成瀬は必死に呼び掛けながら両手で腹部を押さえる。

「しっかりしろ!」

成瀬が救急車を呼ぼうと携帯に手をかけた。

しかし芹沢は薄れ行く意識の中で成瀬が連絡する手を拒む。

「これで良かっただ…
さ、最初から…、こうしていれば」

芹沢は成瀬の携帯を外すと両手で成瀬の手を握る。

「生きて下さい、
精一杯、自分の為に…
生きて下さい。
友雄さん…、許して下さい。
俺の事も貴方自身も…」

そう言い終えると成瀬の手を持った芹沢の手が離れ落ちて息絶えた。

「しっかりしろ!!
目を開けてくれ!!
死ぬな!死ぬな」

成瀬は芹沢の体を抱え起こして泣き叫んだ。

芹沢の体を壁にもたらせて座らせると成瀬も隣に座り込み直人に詫びた。

「許してくれ…
僕の事も貴方の事も」

スクラップ場に駆け付けたしおりは足を止め、立ち尽くして泣いた。

夜の静寂の中、月明かりを浴びた芹沢とハ−モニカを持った成瀬の穏やかに眠る姿であった。



−THE END−





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